コチニールの赤

スターバックスが、ストロベリーフレーバーの飲料にコチニールというカイガラムシから抽出した赤い色素を使っていたという問題。多くの方がこの事を問題視していて、

「こんな虫なの?気持ち悪い」

とか

「嫌だ」

という感想を抱いておられるようです。
確かに、初めて見る方がそういった感想を抱かれることは至極当然のことです。こんなにも脚がありますし。

私がコチニールを知ったのは、かれこれ22年前。大学に入学して、染織を学び始めた頃のことです。天然染料に興味があって、コチニールやラックというカイガラムシからも染料が取れることを知り興味津々。早速染料屋さんで乾燥コチニールをお買い上げしました。煮出してみるとものすごく濃い赤い染液が抽出できました。その濃厚な染液に絹糸を浸すと、美しい赤い色に。天然染料は、色素を定着させる為の金属の種類によって色が変わります。私が使うのは、専らアルミと鉄。コチニールで染めた赤い糸をアルミを溶かした媒染液に浸すと、その赤い色がパッとより鮮やかな赤い色に変わります。心踊る瞬間。では、鉄は?ものすごく深みのある濃い紫色に変わります。
幼い頃からアジア諸国や中南米の暮らしや文化に興味を抱いていた私にとって、中南米の毛織物の鮮やかな赤は心に焼き付いて離れない色でした。中南米のサボテンに寄生するコチニールがこの赤い色だったのか、と感動するやら興奮するやらで、私はそれから好んでコチニールを使うようになりました。

このコチニールが着色料として食品にも使われていることは当時知ったのですが、赤色〇〇号などと書かれた着色料を使った食品を買うよりもずっと安心して買うことが出来ました。むしろ、コチニールが使われているのか!といった喜びにも似た感情(笑)。コチニールが赤い色素を持ってくれているお陰で、私は化学合成された色素を体内に取り込まずに済みます、ありがとう、というような感謝の気持ちまで(笑)。
今回のスターバックスの件は、幾つかの記事にもあるように「虫が使われていた」ということよりも寧ろ「ストロベリーではなかった」ということの方が重要だと思うのです。

メキシコやペルーの赤。美しく鮮やかな赤い色が使われた毛織物。その土地の気候や風土が生み出した美しい文化です。今でも、あの赤い色を見ると心ときめきます。私にとってコチニールの赤は、心弾む特別な色なんです。